3.4.1.2 中性粒子入射加熱

 LHDでは15MWの高速中性粒子ビーム入射(NBI) 加熱を主加熱として位置づけた。これはトカマク同様ヘリカル系においてもNBIによる有効なプラズマ加熱が行えることが実験的に確認されていたからである。しかしながら有効な加熱を行うためにはプラズマ内に吸収された高速イオンが有効に閉じこめられる必要があり、このことからヘリカル系特有の条件がNBIに課せられる。具体的にはビームを磁力線に沿ってトロイダル方向に入射しなくてはならない(接線入射)。この条件の下、高密度でプラズマ中心にビームが十分到達し、低密度でビームの突き抜けが現実的な量にとどまるエネルギーとして180keVを軽水素ビームに対して選択した。
しかしながらここで大きな技術的問題に直面した。高エネルギーの中性粒子ビームを生成するにはイオンビームを中性粒子に変換するのであるが、既存の正イオンを用いた方式では100keVを越えると中性化効率が非常に悪くなり現実的なシステム設計が困難である。この問題の解決方法として負イオンを用いれば良いことがわかっていたが、LHD計画発足当時は加熱源として実用に足る大電流水素負イオン源はまだ基礎研究の段階であり、実用に足る大型負イオン源の開発がLHD計画に於ける重要な開発項目の一つとなった。

 こうして平成元年から核融合科学研究所において大型水素負イオン源の開発研究が開始された。我々はまずいくつかある負イオン生成方式のうち、大型負イオン源としてスケールアップの容易な体積生成方式を開発機の候補として選択し、実機で想定されるイオン源の1/6の引出面積を持つ開発用小型イオン源を製作し性能評価を行った。続いてこの方式に対してセシウムを添加する負イオン生成効率改善法を適用し、その有効性を確かめた。
これらの研究結果から実機規模の大電流負イオン源の開発が可能であることを確認し、土岐地区加熱実験棟に負イオン源開発用テストスタンドを平成4年に完成させ、本格的な開発研究に移った。我々は実機負イオン源の方式としてセシウム添加体積生成方式を採用し、実機の1/3の大きさを持つ開発用イオン源を製作し研究を更に進めた。この間の成果として、

(1) 1Aの負イオンビームを同方式としては世界最大の電流密度54mA/cm2で達成。
(2) 当時イオン源あたりとして世界最大値である16Aの負イオンビーム引出に成功した。この時点で、実機で必要とする負イオン電流密度が達成されたが、負イオンをビームとして引き出す時の損失を押さえるためには、更にイオン源の動作ガス圧を低減することを求められていた。
(3) これに対しては、イオン源内プラズマの閉じこめ性能を改善することにより16.2Aの負イオンビームを低動作ガス圧(0.4Pa)で得ることに成功した。その後は負イオンビームの質を上げることに研究の比重を移した。
(4) 慎重にデザインされた引出孔構造を採用することにより、単一孔より射出されるビームの発散が5mradと非常に小さいことを確認した。また、大型イオン源では千個近い多くの孔からビームを引き出さねばならないが、これらのビームレット群を1カ所に収束させる方法として
(5) 電極の静電レンズ効果を用いた孔軸ずれ方式が有効であることを確認した。負イオンビーム生成パワー効率において最も重要な点は、負イオンに伴う電子電流を如何に抑制するかである。このことはまた電子ビームがビーム加速部においてイオン源自身への熱負荷源ともなるので、装置の健全性の観点からも重要である。これに関しても引出電極孔形状と抑制磁場の工夫により、電子電流値を全加速電流の40%程度に押さえ込んだ。
(6) その結果出力0.3MWで10秒間のイオンビーム引出に成功した。

図3-4-1-2 負イオン方式中性粒子入射装置の開発

 これらの開発成果を元に、平成7年には実機イオン源および入射装置の設計・建設に着手した。入射装置に関してはイオン源の高効率化が順調に進んだ結果を受けてコンパクトな設計が可能となり、機器配置等メンテナンスの容易さを考慮する設計が出来た。また、本入射装置に向けてはこれまでにない大型クライオソープションポンプを開発し、冷凍機をポンプと直結することにより大型ヘリウム冷凍装置及び液体ヘリウム輸送配管をなくしたことで装置の運転を簡単化するとともに保守作業を大幅に軽減することに成功した。一方電源・制御に関しては電圧が比較的低いことから正イオン方式のシステムで培われた既存の技術を駆使し、信頼性の高いシステムの構築を行った。

 実機イオン源に関しては、定格エネルギーは180keVであるが、最初の実験ではターゲットプラズマ密度が低いと予想されたため100keVに設定し、全4台のイオン源を順次テストスタンドで調整を行っていった。

(7) その結果3台のイオン源で25Aの負イオンビーム引出が行え(残り1台は時間の関係で20Aまで。いずれも1秒程度)
(8) 3台のイオン源において出力1MWで10秒間のイオンビーム引出を行なった。

 このように4台のイオン源が全て設計通り同等の性能を発揮することが確認された。これらの結果から、最初の実験においてプラズマに入射可能な中性粒子ビームパワーとして、1イオン源あたり1MWを確保できることが確認された。

 平成10年に2台のNBI入射装置の全体システムが完成した後、これらのイオン源を入射装置に取り付けビーム出力試験を開始した。実機では2台のイオン源を同時に運転するシステムになっており、イオン源を負荷としたシステム全体の調整を進めた。その結果、実験当初から2MWの中性粒子ビームが信頼性良く入射することができ、ポート通過中性粒子入射パワーとして3.4MW/1秒間、1.2MW/10秒間、0.7MW/22秒間をそれぞれ達成した。これによりプラズマ加熱実験を計画通り進めることができた。




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