4 まとめと今後の計画

 大型ヘリカル装置実験計画は、平成2年度から9年度にまたがる8年間の建設工程を成功裏に終了し、平成10年には第1サイクルおよび第2サイクルのプラズマ実験を迫力のある形にて行なうことができた。

 振り返ると、建設の初期には、SC技術が最大の技術的なクリテイカルパスであった。そのため、平成元年に研究所が設立されて後、幾つかの新技術のR&D計画が策定され、強力に実行されている。主な成果は、ヘリカルコイル用の完全安定化導体の開発、ポロイダルコイル用の新しいCIC導体(cable-in-conduit型)の開発、コイル巻線技術の開発に代表されている。これらの開発された技術は、複数のR&Dコイルの試験と実機コイル試験時に具体的に確認され、技術として確立しているところである。平成9年12月末の装置組立完了後、平成10年1月からはコミッショニング(完成)試験にとりかかった。
1)真空排気試験、2)冷却試験、3)通電試験を順次行っており、LHDは、3月17日に超伝導転移を果たした。その瞬間は、実に粛々と事が進行した次第である。この建設期の装置工学に関わる研究開発体制は、現在も装置技術グループとして所内に引き継がれており、今後のLHD実験の円滑なる実行と大きな増力計画に対応できる体制が維持されていることは当研究所の大きな特長になっている。

 本書で報告したとおり、LHDプロジェクトでは、8年にわたる建設工程を通じ、多くの技術的課題を乗り越え、装置の完成と実験の開始を成功裏に達成することができた。得られた成果は核融合に留まらず広い範囲の工学分野の発展に寄与するであろう。同時に今後本格化するLHD実験計画は、これらの技術的は基盤の上に構築されるべき必然性を有しており、プラズマ実験の進捗に応じて、超伝導、熱流束制御、材料、加熱技術、計測技術等の分野において更なる発展が期待されている。

 第1サイクルと第2サイクルの実験の間、プラズマ性能は、目ざましい改善を示し、6.2×1018m-3の密度において、約3MWの中性粒子入射加熱により、電子温度2,700万度、イオン温度2,300万度を達成した。閉じ込め時間と蓄積エネルギーもそれぞれ0.26秒と0.43MJを越えており、22秒の長時間放電にも成功した。これらの成果は表4-1にまとめられているとおりである。

 このようにLHD実験は必要な成果を上げつつ前進してきているが、全体計画として見た場合には、その緒についたばかりのところである。しかし、幸いにも、超伝導工学を頂点とするLHD装置システムの工学インテグレーションとプラズマ物理学の総力を上げての実験研究を、建設期と実験開始期を通して非常にうまく機能させることができている。今後の計画は、この大きな流れを維持し、いかに発展させるかにかかっていると言えよう。

 核融合燃焼プラズマに手の届く高いポテンシャルを有する無電流LHDプラズマによる研究を通して、高温プラズマの理工学を学問として体系化させ、同時に関連する炉工学技術のデータベース化を目指すことには充分な価値がある。LHD装置による研究は核融合の実現に向けての研究であることは広く認知されているところである。しかし、高温プラズマを対象とする研究は、宇宙のほとんどを構成しているプラズマに関わる学問領域に関与しており、恒星の内側、宇宙創成期の世界を知る手がかりにもなる可能性がある学術分野である。
また、非常に強い非線形性を有している故に起こる磁場とプラズマとの相互作用に関る輸送、不安定性等は、複合・複雑系の典型的な現象であることも良く知られている。従って、LHD研究を広い視野に立って進めることも今後強く求められることになろう。ただし、現状はまず、LHD実験研究を更に強力に推進するための方策の具体化が必要であり、そのためには今後も継続しての人的及び、予算的な投資が必要とされる。

 LHD実験の今後について述べる場合には、当面の実験計画と10年先まで見通した長期的な展望との二とおりの計画についての記述が必要とされる。

a)当面のLHD計画(第1期)

 第1〜第3サイクルまでの実験計画を図4-1に示した。

 LHD実験は当面の目標であった3丁近傍での強磁場運転が実現し、最大で2.85Tを達成し、第3サイクルでは2.7Tでの通常実験が可能となった。年間約1,000時間のマシンタイムが確保されている。

 プラズマ実験における主要テーマは、

1)高性能プラズマの生成、制御
2)閉じ込めの改善
 分布制御、周辺制御による
3)高β化
4)定常プラズマ生成

の4つである。そのためには、当面世界の3大トカマク装置と比肩できる1MJを越えるプラズマエネルギーと数千万度のプラズマ温度が必要であり、加熱装置の増強とプラズマ真空容器内のダイバータを含む受熱系、冷却系の増強が計画されている。

 まず、加熱装置であるが、主な加熱装置はNBIであり、当面7MWから10MWを目標としてプラズマの温度と密度の改善を図る計画である。他の加熱装置はECHとICRFであるが、ともに1MWを加熱の最大パワーとしているため、主加熱装置であるNBIとは明確にその役割が異なることになる。前者のECHは、現在、84GHz帯と168GHzのジャイロトロン数本を有してしており、NBIのターゲットプラズマ生成を受け持つ役割に加えて、電子温度に関する分布制御に果たす役割が非常に大きくなる見通しである。これは、パワーレベルから見ても、適当なテーマと言える。ICRFについては、将来の大型化に備えての予備実験の位置付けにある。ICRF加熱がコストパフオーマンスの良い事が期待を集めており、大加熱定常化実験の足がかりとなるデータベースの蓄積が求められている。
当面、ループアンテナ1セットと導波管型アンテナ1台の二とおりの実験ツールが既に準備されている。

 計測装置についても、第2サイクルまでに、やはり非常に良い立ち上がりを見せている。空間130点で50Hzの繰り返しで電子温度・密度分布が可能なレーザートムソン散乱装置、空間12コードの密度分布計測を実現しているFIR干渉計等の大型の測定器をはじめ、数々の装置でのデータの蓄積と解析が進んでいる。今後も精度と信頼性の向上に努め、その蓄積が急速に進む目通しがついている。蓄積されたデータについては、そのデータベースとしての共通化、共有化を進めている。特に共同研究者にとっての活躍の場でもあり、多方面の新しい具体的企画を用意する計画である。国際的な評価に耐えられるだけのデータベースの蓄積が進んでおり、これらのデータは、もちろん順を追って公開されて行く予定である。

b)長期的なLHD実験計画

LHD実験計画は、当初、a)項にて説明した通りの初期の3年間の第1期実験に対し7年間の第2期実験計画から構成されていた。都合10年間の実験計画とされていたわけであるが、現状概算要求に基づく施設整備費はこの第1期実験の実行に必要な経費のみが認められている段階である。また、運転経費も当初の計画に比べて完全に認められているわけではないため、今後長期的なビジョンに基づいたLHD実験計画の拡充実現への努力が一層強く求められることになる。ただし、一方では、厳しい財政状況下にある現状に照らして、LHD実験計画は多少の遅れを覚悟しなければならない状況も理解しなければならない。LHDの実験体制はフレキシブルな対応を求められている。

 第2期実験計画は、第1期a)項での種力の実験成果に基づき、その学問的な評価を済ませた後、新たな計画として構築される必要があるが、その計画の骨子は以下のとおりである。

1)磁場の増強、4T化によるプラズマ制御特性の改善
2)加熱出力の倍増によるより高性能プラズマの生成
3)重水素実験によるプラズマ性能の更なる改善
4)長時間放電の実現と定常無電流プラズマ物理の開発

1)項の磁場の増強のためには、ヘリカルコイルの超流動冷却を実現する必要があり、これは、超伝導工学にとってのきわめて斬新かつ挑戦的なテーマの創成を意味している。液体ヘリウム冷却系の能力の倍増が求められており、現状の窒素シールドに加え、4.4Kでのサーマルアンカー等の設置が技術的に必要となる。世界的に見渡してもLHDクラスの大型構造物を超流動ヘリウム温度まで冷やした前例はなく導体の安定性の改善と冷却特性に関わる超伝導工学に新たなマイルストーンを築く研究事業となる。

2)項の主加熱装置の増強に当たっては、第1期の実験結果と実績を踏まえて加熱手段とその将来への発展性を慎重に判断する必要がある。NBIの場合、更に2本のビームラインの設置により出力の倍増が可能である。これに加えて、ECHとICRFを補助的な加熱手段として用いて相乗的な効果を発揮させることができる見通しである。入カパワーの増大にともないダイバータ等の真空容器表面での冷却手段の拡充が求められており、より核融合炉条件に近づいた領域での総合的な試験が実施可能となることに意義がある。

3)項の重水素の使用は、過去の実験データにみられるとおりの同位体効果による閉じ込めの改善とメカニズムの解明を目指しての実験計画である。重水素プラズマヘの重水素ビームの入射によりD-D反応が起こり中性子とトリチウムの発生が見込まれている。中性子の発生量は、最大2.4×1020個/年、トリチウムの発生量は、最大10Ci/年でありD-T核融合炉の条件に比べればはるかに少ないレベルであるが、環境への影響、放射化等の点で慎重な検討が必要とされている。真空容器の低放射化材料への変更、中性子シールドの追加等かなりの技術的対応が必要な課題である。放射線障害防止法に基づく科学技術庁の認可、地元の了解の取り付け等課題が多く残されている。
この同位体効果については第1期の実験においても重水素以外のプラズマによる実験が予定されており予備的なデータベースが得られる見通しである。更に進んでは、重水素の代わりに4Heをまたは3Heを用いる実験の検討も進められている。検討の時間は充分にあるため、今後の適切な判断と妥当かつ慎重・現実的な対応が可能であると考えている。

4)項の長時間放電は、無電流定常プラズマの実現として大変意味のあるテーマである。時定数に関わる諸定数の検討の結果、1,000秒程度が最低必要と考えられており、また加熱出力についても充分意味のあるレベルとして10MWまでの実験を予定している。ヘリカル型の能力を示す象徴的な実験との位置づけもあるが、技術的な困難も大きく、従って大変チャレンジングな実験テーマとなる見通しである。加熱手段は、NBI、ECH、ICRFとも対応が充分に可能であり、それぞれの特長を生かして核融合炉へ直接つながる技術の開発が可能となるであろう。

以上、第2期の実験計画と最終的な目標領域を図4-2に示す。現在の研究のフロントと比較して新しい領域における研究テーマの創造を目指していることが良く理解できる図としてこれを示したい。

表4-1 達成されたプラズマパラメータ

高温
電子温度 2700万度
イオン温度 2300万度
閉じ込め時間 0.15秒
加熱吸収パワー 1.8MW
電子密度 6.2×1018個/m3
高閉じ込め
電子温度 1400万度
閉じ込め時間 0.26秒
加熱吸収パワー 1.5MW
電子密度 3.8×1019個/m3
最大蓄積エネルギー
蓄積エネルギー 0.43MJ
体積平均べータ 1%
最大密度
6.3×1019個/m3 (ヘリウム)
7.0×1019個/m3 (水素)

図4-1 大型ヘリカル装置実験計画
図4-2 大型ヘリカル装置が目標とするプラズマ


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