核融合炉実現のためには、核燃焼プラズマの長時間保持が必須であり、核融合三重積nτET(nは密度、τEはエネルギー閉じ込め時間、Tは温度)を高めパルス幅を長くする必要がある。このための核融合方式として、ヘリカル装置は、
の特徴がある。これらの特徴を生かした設計研究と実験計画立案がLHD(Large Helical Device:大型ヘリカル装置)計画として進められている。
核融合の研究開発は、近年著しく進展し、いわゆる臨界条件(Q値=1)を達成するところまできている。この核融合研究の新しい局面を迎えた結果、本計画に寄せられる期待とその果たすべき役割はさらに高まっていると言える。LHD計画は、超伝導ヘリカル装置を建設して無電流プラズマの生成を行い、核融合炉に外挿できるプラズマの物理を探求することを目的として発足したが、プラズマ物理学と炉工学の両分野にとって十分意義のある計画となる必要があり、現在の建設の過程においても物理解析と試作開発を中心とする多くの成果がすでに生み出されている。目標領域と主要実験課題を図3.1-1及び表3.1-1に示す。
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図3.1-1(a) 大型ヘリカル装置(LHD)の目標領域(その1) |
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図3.1-1(b) 大型ヘリカル装置(LHD)の目標領域(その2) |
テーマ | 第1期(B=3T) | 第2期(B=4T) | |
(1)高温プラズマの輸送とその改善に関する研究 | (a)高nτET閉じ込め領域 | 密度1×1020m-3 平均温度<Ti>=<Te>〜2keV τE=〜0.1s |
密度1×1019m-3 平均温度<Ti>=<Te>〜3〜4keV τE=0.1〜0.3s |
(b))高イオン温度領域 | 密度2×1019m-3 Ti(0)〜7keV |
密度2×1019m-3 Ti(0)〜10keV |
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(2)高βプラズマの安定な閉じ込め | <β>〜5% | <β>〜5% | |
(3)ヘリカルダイバータを使った定常運転実験 | 定常実験(バッフル板部分的設置) | 定常実験(バッフル板完全設置) |
LHD装置は、日本独自のアイデアに基づくヘリオトロン型と呼ばれるヘリカル形状のコイルと磁場を持つ核融合プラズマ実験装置である。昭和61年度から昭和63年度にかけて大学連合組織として作られた設計グループで設計作業が行われ、それらの検討結果はグリーンブック、ブルーブック、オレンジブックのLHD設計報告書にまとめられている(文献(1)〜(3)参照)。平成元年度の当研究所の創設以降は、この作業が当研究所によって引き継がれ、具体的な形で建設が進行する運びとなり現在に至っている。このように、研究開発においてはこの独創性を発揮し世界の核融合研究を先導している。現在、LHD装置の建設は8年計画の4年目として順調に進んでおり、平成9年度からプラズマの生成・閉じ込めを予定している。装置設計・建設は当研究所創設以来これまで所内の本体・加熱・計測の各グループ・研究系を中心に進められている。
LHDの磁場配位は物理面の閉じ込め、高べータ、ダイバータと技術面の超伝導コイル等との両面から最適化されたものであり、全国の大学研究者の英知を結集して検討されてきたものである。現在は、共同研究や年度末のLHD計画成果報告会を通じて所外の意見を反映しており、所内の本体・加熱・計測の各グループ間にまたがる検討課題はLHDプロジェクト会議において調整・決定がなされている。特に、実験計画の検討は、物理設計のみならず装置建設・運転・実験の技術的検討にも関連しており、プロジェクト会議の下に「輸送」「高べータ」「ダイバータ」「定常」に関する実験計画検討作業会を設けて検討を続けてきた。実験期は第1期(磁場3T)及び第2期(磁場4T)に分けて計画が立案されており、各実験計画の課題は以下のようにまとめることができる。
(1)プラズマ輪送実験
プラズマの閉じ込めの物理解明と改善の試みは、トカマクを含めて、現在のプラズマ研究の中心的課題の一つとなっている。LHD実験の第1期ではヘリカル系における異常輸送プロセスの解明とスケーリング則の導出が課題であり、トロイダルプラズマの総合的理解を進める。種々の方法による閉じ込め改善のための努力も重要である。また、重水素を用いての閉じ込めに対する質量効果・閉じ込め改善効果や、アルファ粒子模擬実験としてのHマイノリティ加熱実験と高エネルギー粒子閉じ込め実験が予定されている。第2期では、高パワー加熱による閉じ込めへの影響や、ブートストラップ電流の発生と制御等が研究テーマである。
(2)高べータ実験
LHD磁場配位の決定には、核融合炉レベルの高べータ値の達成が重要な課題として考慮されている。第1期では磁場配位と有限べータ効果についての予備的実験が行われ、第2期では加熱電力の増力とポロイダル電源増力による高速磁気面制御により本格的な高べータ実験が予定されている。特に、磁気面変形実験・分布制御実験を通しての高べータ化が重要な実験課題である。
(3)ダイバータ実験
既存のヘリカル装置とLHD装置との大きな違いは、LHDでは本格的ダイバータ実験を構想している点である。第1期のダイバータ実験では、まず、オープンダイバータ配位での実験を行い、ダイバータ及びリミター配位の閉じ込めに及ぼす効果や定常プラズマを目指し、熱・粒子制御の研究を行う。また、部分的なバッフル板を設置してダイバータプラズマの基礎データを蓄積する。これらを踏まえて、第2期では完全なバッフル板を設置し、高温ダイバータ運転や高密度ダイバータ運乾等の多様な熱・粒子制御実験を行う。
(4)定常実験
環状磁場配位のなかで、ヘリカル系の最大の利点は「原理的に定常運転が可能であること」にある。この点の実証確認実験として、第1期では1MW程度での定常実験を試み、第2期では、本格的ダイバータバッフル板設置や定常加熱電源の増力等により3MWの定常運転を実現させ、定常実験のデータの構築を目指す。
以上のLHD計画の主要実験課題を、関連機器の整備を含めて表3.1-2に整理した。更に詳細な検討結果は文献(4,5)の報告書にまとめられている。ヘリカル装置では、トカマクの閉じ込め物理に相補的な実験成果を挙げるとともに、長パルス・超伝導システム等の炉への課題・展望を切り開いて核融合炉開発に貢献することが極めて意義ある実験課題であり、LHD計画の使命の一つでもある。
実験期 | 実験課題のまとめ | ハードウェア整備 |
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第1期 平成9年→平成11年 |
<初期実験>
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ヘリカル磁場コイル(HFC) 磁場 3T ポロイダル磁場コイル(PFC) 制御 低速 バッフル板 部分 定常加熱 3MW(目標) ・加熱 ECH 10MW NBI 15MW ICRF 3MW 放電ガス D&H ビーム種 H |
第2期 平成12年→平成18年 |
<高性能化実験>
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HFC磁場 4T PFC制御 高速 バッフル板 完備 定常加熱 3MW ・加熱 ECH 10MW NBI 20MW ICRF 12MW 放電ガス D&H ビーム種 D&H |
文献
(1)次期大型ヘリカル装置設計グループ「次期大型ヘリカル装置計画の基本構想」昭和62年3月(グリーンブック)
(2)次期大型ヘリカル装置設計部会「次期大型ヘリカル装置計画」概要、第一部・第二部、第三部、昭和63年3月(ブルーブック);Design
Group for the New Large Helical System Device,"New Large Helical System
Device (Outline)"March,1988
(3)大型ヘリカル装置設計グループ「大型ヘリカル装置の基本設計」平成元年3月(オレンジブック)
(4)大型ヘリカル装置計画設計グループ「大型ヘリカル装置計画I」平成2年6月(NIFS
LHD Technical Report 1)
(5)大型ヘリカル装置計画ブロジェクト会議「大型ヘリカル装置計画、実験計画検討」平成4年3月(NIFS
LHD Technical Report 2)
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