LHD計画における課題は、核融合プラズマヘの高精度外挿を可能とする高温高密度領域に首尾良く到達し、そこで行う種々の実験結果から、より進んだ核融合炉システムを構築するためのデータベースを得ることを最大の目的としている。いいかえると、本計画はトカマク型とは異なる独自の路線であるヘリカル型によるアプローチとして、トーラスプラズマの物理全般の更なる理解を目的としているのである。ここで、本体装置の組立図と基本仕様を図3. 2-1及び表3.2-1に示す。
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図3.2-1 LHD装置本体組立図 |
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項目 | 実験期 | ||
第1期 | 第2期 | ||
磁場配位 装置規模 |
l値 m値 γc(ピッチパラメータ) αc(ピッチ変調) 装置主半径 プラズマ小半径 プラズマ体積 磁場強度 |
2 10 1.25 0.1 3.9m 0.6〜0.65m 30m3 3.0T |
左同 〃 〃 〃 〃 〃 〃 4.0T |
ヘリカルコイル ポロイダルコイル ダイバータ プラズマパルス幅 運転周期 DD実験回数 |
起磁力 電流密度 冷却温度 最大磁場 OV最大起磁力 IS最大起磁力 IV最大起磁力 バッフル板 |
5.85MA 40A/mm2 4.2K 7.2T -4.5MA -4.5MA 5.0MA 部分的設置 10秒以上 5分 --- |
7.80MA 53.3MA/mm2 1.8K 9.6T 左同 〃 〃 完全設置 左同 〃 5000/年 |
LHD装置の特徴は、(1)従来のヘリカル型装置と比べ比較的小さいアスペクト比(R/ap〜7)、(2)周辺プラズマと粒子制御(閉じ込めの改善を目指す)のためのダイバータの装着、(3)超伝導コイルとダイバータによる定常運転、そして、(4)連続型のヘリカルコイルの採用等にまとめることができる。また、この計画には、本体に関して2つの重要な技術的イノベーションがある。それらは、(1)蓄積エネルギーが約1.6GJの超伝導装置の建設及び(2)プラズマと壁との相互作用の制御を可能とするダイバータ板及び第一壁の材料開発である。つまり、主たる技術的課題は、(1)超伝導ヘリカルコイル、(2)超伝導ポロイダルコイル、(3)ダイバータを有する真空容器、(4)電源とコイル保護、(5)制御システム、そして(6)冷凍機システム等、多岐にわたり、LHDの使命を達成すべく研究開発計画が組まれているところである。
LHD計画においてはその規模、実験目的からしてトリチウムを使用することはない。しかし、主として閉じ込めの改善を目指して重水素ビーム入射実験を予定しており、それに伴う中性子遮蔽と排気ガス処理、空気の放射化対策、残留放射能対策、事故対応シナリオの策宰等将来の核融合炉の抱える課題にすでに具体化した形で取り組んでいる。この分野においても炉工学との接点として新しい核融合研究の進展が期待できる。
LHDのプラズマの大半径及び小半径は、それぞれR=3.9m, a=0.6mである。磁場強度は、第1期では、B=3テスラ(T)であるが、その後の増強により最終的にB=4T(第2期)までを予定して準備が進められている。加熱システムは、ECHが10MW/84GHz、NBIが20MW/125keV(H)、ICRFが12MWである。定常実験では本格的ヘリカルダイバータを用いてECHあるいはICRFパワー3MW/連続で行われる。これらの実験計画の骨子については前節で示した。
LHDの装置設計と建設及びR&Dは、順調に進展している。現在各地工場にて建設中の本体主要コンポーネント(完成予定年度を示した)と来年以降、土岐サイトで建設に着手する予定の各種コンポーネントを表3.2-2に示す。
(1)ポロイダルコイル(IV〜平成4年完成、1S〜平成6年) (2)下部クライオスタット(〜平成5年) (3)ヘリカルコイル巻線機(〜平成5年) (4)ヘリカルコイル導体(〜平成8年) (5)液体ヘリウム製造機(〜平成5年隼) (6)ポロイダルコイル電源(平成5年) (7)冷却水装置(平成5年) |
(1)ヘリカルコイルとコイル容器 (2)最大ポロイダルコイル(OV) (3)プラズマ真空容器 (4)上部クライオスタット (5)低温シールドシステム (6)装置組立・据付、等 |
表中の超伝導ポロイダルコイルのうち、最小径の一組(IV:内側垂直磁場コイル)は、平成3年度〜平成4年度に製作され既に完成している。このコイルの主半径は1.8mであり、運転時の最大起磁力は500万アンペアターンである。LHD用超伝導コイルに関するR&Dは、当研究所の推進するR&D計画の要の一つであり、超伝導コイルの材質としてはNbTi(ニオブチタン)を、冷却方式としてはヘリカルコイル系では浸漬(しんし)冷却を、ポロイダルコイル系では強制冷却が選択された。特にヘリカルコイル用として、構造材としての銅以外に安定化材としてアルミニウムを用いる大電流導体(〈30kA)が新たに開発された。R&Dの過程において、アルミニウムと銅の間で生じるホール効果による異常抵抗の発生が大きな問題であったが、Cu-Ni層を中聞に入れることによって解決しれ超伝導分野のR&Dは研究所創設期より一貫して土岐サイトで行われている。その開発に関する要素項目は多岐にわたっており、主だったものを表3.2-3に示す。
(1)強制冷却導体の臨界電流、安定性及び熱流体特性 (2)浸漬冷却導体の臨界電流及び極低湿での安定性 (3)ヘリカルに巻いたR&Dコイルにおけるクエンチ現象の拡がりと伝搬の研究 (4)コイルの製造と材質に対する機械強度試験 (5)超伝導バスラインの開発 (6)ヘリウム冷却冷凍システム開発 (7)コイル保護電源制御法の開発 |
開発研究の成果は、LHD装置の設計と建設に十分生かされており、その装置性能の飛躍的な向上に大きな効果を発揮してきた。今後もこれらのR&D計画は、核融合炉工学に重要な寄与をするものとして鋭意進めていく予定である。
一方、プラズマの周辺制御に関する開発研究も順調に進展してきた。LHD装置は定常状態の粒子のリサイクリングを制御し、プラズマの閉じ込め時間を約2倍以上に改善することを目的としてダイバータを備えている。真空容器はアレイ形のポロイダル断面を持ち、閉じたダイバータ室が作れるようになっている(図3.5.1参照)。我々はプラズマ境界の研究、例えば境界層での磁気シア、密度勾配、電場の効果の研究の重要性を十分認識しており、これらのことが物理研究用の実験装置としてのLHDにおいて、十分に研究対象としてカバーされるよう、ポートの大きさ等を含め装置設計に高い柔軟性が考慮されている。
次に本体の受け皿となる本体棟等の建屋関係の計画の進捗状況について述べる。岐阜県土岐市のサイトでは、低温実験棟に続き、平成3年度に加熱実験棟が建設され、平成4年度には準定常電源棟も完成している。共同溝等の基幹整備も進行している。最大の建物である大型ヘリカル実験棟も順調に建設が進められており、平成5年度末には本体室(軸)部分が完成予定である。
以上のとおり、LHD計画は、各方面の協力を得て、現在順調に進行している。必要なR&Dは基本計画の最終段階にさしかかり、核融合炉工学に寄与する有益なデータが続々と集まりつつある。物理工学設計とR&Dの期間に、我々は新しいアイデアや重要な成果を蓄積してきており、既にLHD計画は世界の核融合研究の加速に欠かせないプラズマ物理に関する知見や核融合炉工学の発展に寄与している。
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