3.3.1 世界に誇る超伝導コイル技術

 大型ヘリカル装置は、世界で最初の全超伝導装置であるとともに、ここで使われる超伝導技術は、コイルエネルギー、電流値、電流密度、電磁力、コイル間カップリングの強さ等において世界最高の値に挑戦するものである。このため当研究所では、平成元年より大型ヘリカル装置に適した超伝導技術の開発研究に着手してきた。一般の超伝導マグネットでは、中心磁場の強さが指標となるのに対して、核融合用では単位面積当たりの起磁力も指標となるため、大電流と大電流密度を共存させることが必要である。しかも、必要な磁気面を形成するために、各コイルは高精度の構造を持っていなければならない。

 開発に当たっては、導体及びコイル製作技術を中心とし、関連する断熱、冷却等も課題として据えてきた。以下、まず諸課題を整理し、問題解決のアプローチ、その解決結果について述べる。なお開発成果の実機への応用については、3.2節で述べている。

図3.3.1-1 ヘリカルコイル導体の開発と実機製作の流れ

表3.3.1-1 超伝導・低温技術 R&Dの成果
1 超伝導導体基礎研究
  1. 導体試験設備の設計製作と設置
    電流100kA、磁場9T、温度4.2K、荷重1,000トンの世界最大の極低温・超伝導試験設備の設計及び試運転
  2. アルミ安定化方式導体
    アルミ安定化材の利点である高磁場での低抵抗と、欠点である機械強度の低さと、複合時の異常磁気抵抗を考慮した導体の設計と製作
    NbTiを素線として種々の断面構成の導体を設け、まず10kA級5種類、次いで20kA級2種類を試作し、臨界電流、安定性を測定し、実機用導体の基礎データを取得。
  3. 高臨界、高回復電流導体
    コイル信頼性を高めるため、運転電流に対して十分高い臨界電流値と運転電流に匹敵する導体の設計
  4. 導体クエンチ時の電流移動と電圧分布
    超伝導導体から安定化材への電流乗り移りの機構とその回復過程
  5. 強制冷却導体の素線絶縁効果
    交流損失の減少と、安定性のトレードオフの検討、導体基本仕様を決定
  6. 導体の交流損失の測定
    ヘリカル・ポロイダル導体の交流損失をLm運転モードを考慮しての測定(鹿児島大学との共同研究)
  7. 導体・マグネットの安定性
    ソリッド型導体の熱擾乱安定性。密巻マグネットとCICCマグネットの安定性に関する理論と実験
2 ヘリカルコイル用導体開発
  1. 実験用導体の設計と製作
    アルミ安定化浸漬冷却導体の基本設計と製作方法検討
  2. 試作導体の短尺超伝導特性試験
    高磁場中での臨界電流値、回復電流値、許容擾乱等を測定し、基本設計との比較、導体の温度・電圧の詳細な測定により、導体内電流分布、磁気抵抗効果解明
  3. 異常磁気抵抗効果の除去
    異種安定化材組合せによる異常磁気抵抗効果(ホール効果を主原因とする)の影響を除去する設計上の工夫とその実験的確証
  4. 導体表面状態と熱伝達効果
    黒化処理面、エポキシ塗布面の液体ヘリウム中での熱伝達特性の角度依存性測定
3 ポロイダルコイル用導体開発
  1. 土岐-PF用導体の安定性測定
    交流損失低減型導体の安定性測定とその結果に及ぼす要因解析
  2. IV(内側垂直磁場)コイル用導体の基本設計と製作
    NbTi強制冷却型IVコイル用導体の基本設計とその製作法決定
  3. 試作導体の短尺超伝導特性試験
    高磁場中での臨界電流、許容熱擾乱、導体内電流分布測定
  4. 長尺導体の安定性試験
    強制冷却導体の安定性を終端効果のない長尺で試験し、制限電流値取得
4 超伝導コイルの保護
  1. クエンチ時のエネルギー回収(電源、耐電圧)
  2. クエンチ時の低温系の保護
  3. 熱状態でのコイル温度シミュレーション
5 超伝導コイル試作開発
  1. ヘリカルコイルR&D
    1. 土岐-MC : ヘリカルコイル相当の電磁力を模擬した、ねじられたソレノイドコイル
    2. 土岐-HB : 1/5規模の浸漬冷却ヘリカルコイル
    3. 土岐-TF : 1/5規模の強制冷却ヘリカルコイル
      コイルの巻線によってヘリカルコイル巻線の基本技術(巻線精度、絶縁、スペーサ配置等)、
      コイル冷却技術、導体固定法習得
      (土岐-MCの実験ではクエンチ電流が導体の動きで決まること、土岐-HBの実験ではヘリウムガ スの逃げ口が重要であることを見いだす)
  2. ポロイダルコイルR&D
    1. 土岐-PF : R&Dポロイダルコイル
    2. IV-S : IVと同構成の導体を用いた縮小R&Dコイル(強制冷却導体の長尺状態における安定性の測定を目的として実施)
  3. コイル診断法の開発
    導体の動きを超音波放射(AE)法により診断(成蹊大挙との共同研究)
  4. 強制冷却コイル安定性解析
    強制冷却導体の安定性を決定する要因として素線間絶縁、ボイド率を変化したデータを実験的に取得、これに基づく理論的検討(日米共同研究)
6 超伝導バスライン
  1. 超伝導バスライン概念設計
    コイル電源とLHD本体コイルとを接続するバスラインの超伝導化のための基本設計実施
  2. 要素試験
    1. 絶縁耐圧試験
    2. 断熱真空配管熱侵入量測定
  3. アルミニウム安定化超伝導成型撚線開発
    1. 素線短尺試験
    2. 成型撚線化
    平成4年度に要素試験及びアルミニウム安定化超伝導成型撚線開発完了
  4. 20m長R&D超伝導バスライン試作・試験
    平成5年度は20m長のR&D超伝導バスラインの実験を行い、性能実証予定
7 導体・絶縁体複合構造の低温強度研究
  1. ヘリカルコイルパック剛性試験
  2. ポロイダルコイルパック剛性試験
    実際のコイルを模擬した実導体絶縁物を使用したコイルパックを作成し、液体ヘリウム中にて、圧縮曲げ試験による剛性評価
8 LHD本体構造用合金銅、溶接研究
  1. 極低温、強磁場中の引張試験
    電磁力支持構造物の材料であるSUS316-LHDについて、電磁場中にて引張試験実施
  2. 極低温、強磁場中での破壊靱性試験
    極低温構造材及び溶接部の破壊靭性について実験進行中
  3. 溶接法、溶接材料の開発
    極低温用構造材のTIG, MIG溶接法の開発評価及び最適溶接法検討
9 超臨界ヘリウム循環冷却技術
  1. SHeポンプ性能試験
    共同研究によるLHD冷却技術としてヘリウム冷凍機システムをまとめ製作を開始
    第2期に1000g/s級のポンプが必要なため、50g/sのポンプによるIV-Sコイル循環試験実施
10 超流動ヘリウム冷却冷凍技術
  1. 超流動発生システム
    第2期用超流動ヘリウム冷凍システム検討中(共同研究)
  2. 超流動冷却技術
    1. 超流動He冷却クライオスタット改良
      超流動ヘリウム部と、常流動ヘリウム部との仕切を貫通する電流リード部での温度分布改善作業実施中
    2. ヘリカルコイル導体間スペースのHe-II限界熱流束評価
11 超流動ヘリウム下での耐電圧技術の開発研究
  1. 飽和超流動と加圧超流動ヘリウム雰囲気の電極耐電圧特性の研究を実施中
12 IVコイル単独試験
  1. ポロイダルコイル実機IV-L運転技術習得のため、専用クライオスタットを完成、関連機器準備中

(1)開発課題

 ヘリカルコイルを超伝導線で連続的に巻くという課題が与えられたために、図3.3.1-1に示すように開発と実機製作を関連づけている。ヘリカルコイルは通電とともに電磁力によってコイルは転倒する方向の力を受けるため、コイル剛性が重要な開発要素になっている。表3.3.1-1は開発項目と成果をまとめたものである。表3.3.1-2は6個のR&Dコイルの基本仕様とそれぞれのコイルでの主要課題をまとめたものである。

(2)超伝導試験設備

 世界最大の超伝導コイルのための開発を実行する試験設備として、当研究所には、世界最大の能力を持つものが設置された。図3.3.1-2は、低温実験棟の試験設備の配置図である。本設備は75kAの直流電源、1,000トンの極低温材料試験機、200L/hのヘリウム液化機、9テスラの超伝導マグネットからなっている。この設備のコイルテストスタンドは、強制冷却及び浸漬冷却のコイルが試験できるようになっている。本設備の稼働前には、一まわり小型(約2分の1の能力)の導体及びコイル試験設備を用意して、京都-SCコイル、縮小導体モデルの試験を行った。低温実験棟の設備の動作開始とともに、土岐-MC、土岐-HBの両浸漬冷却コイルと土岐-PFの強制冷却コイルの試験を行った。また導体試験では、ヘリカルコイル侯補導体2本とポロイダルコイル用強制冷却導体の実験を行った。

(3)開発の成果

1)ヘリカルコイル導体
 超伝導導体の特性を表す指標は数多くあるが、大電流導体では十分に高い臨界電流、運転電流比と冷却安定性(運転電流以上の回復電流)が同時に達成されることである。図3.3.1-3は実機用導体の臨界電流を、図3.3.1-4は回復電流を示している。この結果はヘリカルコイルの要求仕様を十分に満足し、浸漬冷却導体として、世界最高の性能を有している。開発の主要点は高電流密度の超伝導素線、熱伝導、電気伝導に優れた高純度アルミニウムを、安定化材に使うための表面処理の工夫、導体としての集合化技術がある。

2)ヘリカルコイル巻線
 巻線の開発は、京都-SC、土岐-HB, MC, WT, TFの5つのR&Dコイルを作ることによって行った。ヘリカルコイル特有の連続巻きについては、HBとTFの2つのコイルにおいて導体送り出し、ねじりの与え方を具体的に試験し、十分高い位置精度を得ている。また、コイル絶縁と冷却チャンネルのための導体間スペーサーの配置及ぴ転倒力支持のためのコイル側板の取付け等、実機のための有用なデータを得た。コイル剛性はヘリカルコイル導体16本を規定のスペーサーを用いて組み1,000トン極低温圧縮試験機を使用して測定した。

3)ポロイダルコイル導体
 ポロイダルコイル導体は強制冷却方式をとっているため、超伝導特性の中でも特に安定性が重要である。超伝導体としてはNbTi素線を34×6本(多重より線構造3×3×3×3を6本)使用している。開発に当たっては安定性と交流損失を比較しながら進め、その結果素線の表面には絶縁を施さない方式をとった。図3.3.1-5に示すように運転電流20kAまで高い安定性を示す導体を開発できた。この開発の成果はNbTi強制冷却導体で画期的な安定性を示すコイルを作り得ることを示している。

表3.3.1-2 超伝導R&Dコイルの使用と主要な課題
名称 形状 冷却法 諸元 主要課題
京都SC型 ヘリカル
m=16
l=2
浸漬 主半径 0.3m
小半径 0.063m
定格磁場 2.0T
導体磁場 2.9T
定格電流 0.76kA
ヘリカル巻線の実証
電磁応力の伝達と支持
超伝導クエンチの伝播

(実験完了)
土岐HB型 ヘリカル
m=3
l=1
浸漬 主半径 0.8m
小半径 0.2m
定格磁場 0.75T
導体磁場 3.0T
定格電流 8.93kA
ヘリカル巻線機の開発
コイル容器の製作法
コイル冷却手法の習得
断熱支持法開発
磁場精度の検証
土岐TF型 ヘリカル
m=4
l=1
強制 主半径 0.9m
小半径 0.25m
定格磁場 0.8T
導体磁場 2.77T
定格電流 8.08kA
ヘリカル巻線法の開発
冷媒分配と電気絶縁法
強制冷却法の習得
断熱荷重支持法の試験
電磁力支持法開発
土岐PF型 ポロイダル
2Dパンケーキ
強制 主半径 0.6m
小半径 0.82m
定格磁場 0.89T
導体磁場 2.76T
定格電流 25kA
強制冷却導体の安定性試験法
初期冷却特性と冷媒流量分布
パルス熱負荷特性試験
温度余裕と超伝導性
大電流強制冷却導体開発
土岐MC型 S字コイル
ヘリカルコイルのモジュール
浸漬 主半径 0.4m
小半径 0.7m
定格磁場 7.8T
定格電流 20kA
実機の電磁力保持法の検証
電磁力・熱応力の実測
実規模導体の巻線
大電流浸漬冷却導体の開発
土岐WT型 ヘリカル
110°分
主半径 4.0m
小半径 1.0m
導体 実機大銅導体
実機の巻線法習得
巻線剛性の特性
コイルの幾何学的形状確認

図3.3.1-2 超伝導・低温試験設備配置図 (核融合科学研究所・低温実験棟)
図3.3.1-3 ヘリカルコイル導体の臨界電流
図3.3.1-4 ヘリカルコイル導体の安定性
図3.3.1-5 ポロイダルコイル導体の安定性

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