3.3.2 高性能定常プラズマを生む加熟技術開発

 加熱の目的は磁場で閉じ込められたプラズマにエネルギーを注入し、1億度近い温度を持つ高温プラズマを生成することである。大電力加熱は、一般的にはエネルギー閉じ込めの劣化を引き起こし、また、ある場合には改良閉じ込め領域への相転移を引き起こすことが知られている。このように、プラズマの閉じ込めと加熱は核融合研究における不可分の重要研究課題と考えられてきた。過去10年、核融合研究は加熱技術の発展とともに成長してきたと言っても過言ではない。

 最近では、電子サイクロトロン加熱(ECH)、イオンサイクロトロン周波数帯加熱(ICRF)、中性粒子入射加熱(NBI)の3つが高温高密度プラズマを生成するための有効な加熱手法となっている。これらの加熱手法は、加熱対象や有効加熱条件が異なり、それぞれの利点を持っている。それらの組合わせにより、更に質の高い加熱を実現することが現代のトカマク研究の潮流となっている。軸対称性を持たないヘリカル系においては粒子軌道やポテンシャル生成に関連した研究課題があり、加熱手法の多様性を積極的に利用することが更に重要となる。

 大型ヘリカル装置では、ECH, ICRF, NBIの3つの加熱をそれぞれ特徴及び物理実験の目的に応じて組み合わせ、高温度/定常プラズマを生成する。すなわち、ECH(周波数84GHz)10MW(10秒運転)3MW(定常運転)、ICRF(周波数25MHz〜100MHz)3MW(定常運転)12MW(1秒運転)、NBIビームエネルギー125keV(水素)、250keV(重水素)20MWが計画されている。これらのプラズマ加熱手段を自由自在に駆使する技術の確立は極めて重要であり、大型ヘリカル装置計画の成否を左右する大きな鍵となる。各々の加熱手段は難易度に差はあるが、各々、技術開発が必要である。当研究所では創設と同時に開発課題の整理を行い、東山サイトにおける開発研究を開始した。平成4年には土岐サイトに加熱実験棟が建設され、本格的な研究開発が開始された。

(1)ECHの開発研究状況

 ECHでの最重要課題である出力1MWジャイロトロンの開発は、周波数可変の特徴をもつ準光学方式のジャイロトロンの開発から始まった。この開発結果をみてジャイロトロンの方式は最終的にホイスパリングギャラリーモードと決定し、平成2年度から試作開発を進めてきた。平成4年度末にホイスパリングギャラリーモードジャイロトロン1号管が完成して加熱実験棟に設置され、平成3年度に完成したジャイロトロン電源を用いて試験に入った。電源はこのジャイロトロンに対応するため、10秒パルスモードと定常モードを備えている。このジャイロトロンの開発目標は1MW(10秒)である。

 ECHのもう一つの重要な開発要素は高性能・高効率伝送系である。LHDではミリ波源であるジャイロトロンがLHD本体から離れて設置されるため、高性能・高効率長距離伝送が必要となる。実機伝送系の設計検討結果からミラーによる伝送コルゲート導波管による伝送を組み合わせてLHD本体まで伝送することが決められた。
LHD本体に入ってミリ波はガウスビームに変換され、曲面ミラーにより反射・収東された後プラズマの中心にむけて放射される。現在までに、1)伝送系で必要とされる構成要素部品の設計検討と試験、2)コルゲート導波管とガウスビームの結合効率、3)コルゲート導波管の伝送損失と周波数応答、4)導波管から放射されたミリ波の放射パターンの解析等の検討、5)各種伝送要素部品の試作・試験開発研究等が行われた。各要素部品の最適化設計が進められ、伝送系要素部品の設計のデータベースの構築と性能評価法の手法確立が進んでいる。
最近62m直線コルゲート導波管を使って反射法によりHE11モードの伝送試験がなされた。実効的には124mに及ぶ距離でHE11モードが伝送されたことになる(図3.3.2-1)。コルゲート導波管での測定された減衰率は2db/km以下と推定された。この結果はコルゲート導波管が十分低損失であることを示し、実機での使用に確信を与えた。

(2)ICRF加熱の開発研究状況

 ICRF加熱は、LHD装置において大電力加熱(12MW)と定常加熱(3MW)を行うべく開発を行っている。1台当たり1MW強(数秒)の発振器、伝送路等の建設は既存の技術で可能と考えられており、今回LHD加熱用には大電力、かつ定常運転可能な装置を目標に研究開発を行ってきた。またICRFでは他の加熱法に比ベプラズマの粒子閉じ込め、周辺プラズマとの相互作用等、アンテナとプラズマ物理に関連した問題の解決が重要な課題である。そのためJIPPT-IIU, CHS装置の支援研究でのICRF実験も重要な位置を占めている。

 ICRF加熱装置として数MW級の定常運転は未知の領域であるため、土岐サイト加熱実験棟に3MW,30分仕様の定常加熱開発試験装置を建設し、開発研究を行ってきた。土岐サイトでの開発項目としては、大電力定常電力供給に関連した技術開発、定常化に必要な各部の冷却法の開発、プラズマとアンテナ間結合強度の時間変動に対応するためのインピーダンス自動整合技術、大電力化に伴う高耐電圧化等が挙げられる。現在までに、必要な開発の一部は完了し、引き続き実験が行われている。
広い周波数帯域(25〜100MHz)で連続周波数可変型の大電力定常発振器の試験が進行中である。定常化に必要な新しい伝送路冷却法として中心導体の内側に流す冷却水により除熱する方式を開発し、この方式を試験装置の伝送路、整合器、アンテナに採用している。
この結果、試験装置において、テストアンテナを無負荷にした状態で30分のRF通電試験を行うことが可能となった。その結果を図3.3.2-2に示す。これは、伝送路上及びアンテナの耐圧RF損発熱において、500Wのプラズマ加熱実験に相当する条件である。今後改良により設計値3MW相当の伝送を可能にする予定である。

 インピーダンス自動整合技術としては新しいアイデアを取り入れた周波数変調帰還方式、非線形透磁率素子(フェライト)を用いた整合回路等を開発し、低電力試験を終了している。

 一方、導波管アンテナによる波動励起という新しい加熱技術を確立するために折り返し型導波管アンテナの研究が開始された。このアンテナは高エネルギー粒子を発生させることのないイオンバーンスタイン波加熱に適している。また、LHDのプラズマ閉じ込め実験時に発生するトロイダル電流を打ち消し、閉じ込めの制御を行うためのICRF速波電流駆動用の多素子アンテナアレイの開発も行われている。

図3.3.2-2 ICRFアンテナの定常運転試験結果

(3)NBIの開発研究状況

 NBIはLHDでの主加熱であり全加熱入力は20MWである。プラズマ中心部の加熱を実現すること、プラズマ密度の広い範囲で加熱可能であること等を条件として、入射粒子エネルギーを125keV(水素)、250keV(重水素)に決定した。また、高エネルギーでも中性化効率が良いことから、負イオン方式を採用することとした。ヘリカル系では大きな入射ポートが取りにくいので、ピームの発散が小さい負イオン方式の採用は適切である。

 負イオン方式NBIは現在世界中で幾つかの計画はあるものの実機入射装置はなく、具体的な設置計画を持つのは我が国の日本原子力研究所と当研究所のみである。負イオン方式の必要性は、トカマク装置の大型化に伴うピームエネルギーの増大とともに認識されるに至った。大電流負イオン源の開発は早くから進められ、現在ではアンペア級の負イオンピームの引き出しが可能になってきている。しかしながら、大型ヘリカル装置計画で要求される負イオン源(45A,125keV)は世界最大級のものであり早急に開発を要する重要項目である。
研究所創設と同時に正イオンテストスタンドを負イオン用に改良し、現在最も有効なバケット型負イオン源を採用し、体積生成型イオン源の物理的理解と最適化実験のための基礎的研究を開始した。これらの成果を基に、平成2年には1/6イオン源、平成3年からは1/3イオン源の最適化実験を続けてきた。平成4年3月には加熱実験棟に負イオン方式NBI開発試験装置を設置して実機設計のためのイオン源及びNBI構成要素の開発が行われている。

 東山サイトで行われた1/6及び1/3負イオン源の最適化実験では、プラズマ源にセシウムを導入し、それぞれ4A及び8.5Aの水素負イオンビームを引き出すことに成功した。引き出し電圧は3.5kV、加速電圧は21kVである。これらの実験で、プラズマ源への放電入力に対する負イオンビーム電流の比例則がほぼ確立された。また、フィルター磁場と閉じ込め磁場の配位を改善することによって、プラズマ密度を増大させることに成功した。その結果、1/3イオン源の面積を縮小した最適化実験で、54mA/cm2の負イオンビーム電流密度を達成した(引き出し電圧-8.5kV、加速電圧32kV)。これはLHD用NBIのイオン源設計に用いた電流密度30mA/cm2のほぼ2倍であり、大型負イオン源の多孔式引き出し電源からのビーム電源としては世界最高値である。

 運転ガス圧の低減と大面積引き出し電極からの大電流負イオン源の引き出しの実験が今後の課題である。現在、土岐サイトで大面積からの引き出しを試み、10.5Aの電流値が得られている(図3.3.2-3)。また、実機イオン源に適用させる技術開発のために、真空内置き型イオン源の最適化実験が進行中である。この実験は、イオン源加速部を電極間隙から排気することにより真空度を上げ、再電離損失を減少させることを目的としている。現時点ではプラズマ源は真空内置き型の1/3イオン源と同じ特性の動作を確認したが、負イオン電流は約0.6Aに留まっている。ビーム引き出し電圧は5-8kV、加速電圧は80kVであった。今後セシウムを注入した実験で大電流化を進める計画である。

 以上、3つの加熱装置についての開発研究が続けられ、それぞれ目標値に近づきつつある。データベースの蓄積とともに、今後の具体的な開発計画が高い精度で構想できるようになり、平成9年度実機完成の計画実現へ展望が大きく開かれた。

図3.3.2-3 水素負イオン電流値の印加アーク電力依存性
プラズマ源へ印加したアーク電カを変えたときに得られた水素イオン全電流値
セシウム添加加モード、引き出し電圧5kV、加速電圧26kV、充填ガス圧0.96Pa

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